和泉元彌さん(50)親子関係でもあり師弟関係でもある特殊な子育ての根底には「伝統を引き継ぐことへの覚悟と感謝」

狂言師の家に生まれて、ご自身のお父様とも師匠と弟子という世界で育った和泉元彌さん。ご自身が父親になって伝統を継承していくこと、その思いをお聞きしました。

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和泉元彌さんprofile

1974年生まれの49歳。狂言師。4歳で初舞台を踏み、1995年21歳で和泉流二十世宗家に。テレビ、映画など多方面で活躍。2001年NHK大河ドラマ『北条時宗』の主役を務める。妻は女優の羽野晶紀さん。1女1男の2児の父。

子ども達自身が稽古場に来たら「父と子の関係」から「師匠と弟子の関係」にスイッチを切り替えてくれるようになりました

STORY編集部(以下同)--父と子であり、狂言一家に生まれた師匠と弟子でもある特殊な関係性をどのようにとらえていらっしゃいますか?

たしかに親子関係なのに師弟関係というのは特殊ですよね。僕は僕の父に対して、師匠90%、父親10%くらいに感じていたのですが、父が生前インタビューで、「師匠95%、残り5%が父親でいられたら良いかな」と話すのを聞いて、父の狂言師を育てる覚悟はすごかったなと思いました。自分も師匠としては厳しく子どもに接しているのですが、それは将来この家を継いでいく子どものためです。でもそれが伝わるのか心配でもありました。決して憎んで厳しくしているのではないというのは伝えないといけないと思っていました。子どもが小さい時はお風呂に入れるのは僕の担当で、この時間が幸せでした。和泉流宗家では子どもが1歳半頃から稽古を始めるのですが、どこまで厳しくしたらいいのか最初は手探り状態でした。一歳半というとちょうど歩き出したり言葉を覚えたりする時期なので、この時期から口伝という方法で稽古を始めます。まわりの大人が言ったことを真似する、やったことを真似する稽古方法なので1歳半からできるのですが、まさに人として成長するこの時期に狂言師としての修業が始まります。最初は正座して手をついてご挨拶をして、ここから稽古だという空気を出します。稽古場に入ったら稽古が始まる、僕も父親から師匠にスイッチを変えてけじめをつけなくてはと心がけていました。厳しくしすぎて翌日子どもが稽古場に来なくなったらどうしようと思った時もありましたが、子ども達自身がちゃんと稽古場に来たら「父と子の関係」から「師匠と弟子の関係」へとスイッチを切り替えてくれるようになりました。父親がこれだけ子どもと時間をかけて向き合える仕事はなかなかないので、恵まれているとも思います。

受け取る側がいないと伝統も継承できないので、稽古では毎回「ありがとうございました」と挨拶します

ーーお子さんの反抗期はどうでしたか?

娘も息子も成人しましたが、反抗期らしい反抗期はありませんでした。稽古で毎日会って向かいあっていたからですかね。最近は子どもの手が離れますねと言われますが、まだ修行過程なので手が離れたというのはないのですが、同士という感覚になってきました。稽古の前によろしくお願いしますと子どもから頭を下げるのですが、僕は子どもに頭を下げて一緒によろしくお願いしますと挨拶をします。伝統を受け継ぐというのは、受け渡す側だけでなくて、受け取る側もいないと引き継げないので、毎日よろしくお願いします、ありがとうございましたと挨拶しています。

20世宗家として伝統を継承するものとしてこれからも自分の背中を見せていくつもりです

ーー21歳の時に師匠でもあるお父様が他界されましたが、当時の心境はいかがでしたか?

僕は二十歳の時に、父の「和泉流十九世宗家家財51年記念」とともに「宗家継承者成人披露」を行いました。翌年父が急逝し、父がやる予定だった舞台の引継ぎが宗家としての最初の務めでした。まわりには「若い」と言う人もいましたが、舞台を止めるわけにはいかないですし、継承しなくては歴史が途絶えるので選択の余地はありませんでした。宗家になっていきなりの大仕事でしたが、プレッシャーを感じる暇もなくがむしゃらに取り組みました。いきなり宗家になったわけではなくて、生まれた時から継承者として育てられた全ての時間が拠り所となりました。

伝統は時流に流されてはいけませんが、闇雲にコピーするだけではいけません。特に伝承の面では。人によって伝わり方は違います。父と同じで良いかといったら、それは違います。人も環境も違う訳ですから。「変えずに伝えるべきことは何なのか?伝え方ではなく、伝える心なのだ」と気づいた時、自分なりの形も生まれてきました。変わらぬ心を伝えるために、変わらぬ型を伝承する。だからこそ、伝え方などを日々工夫しながら本質は変えないように継承することを心がけています。

人生の中で一つのことを見つめ続け、やり続けたからこそ、観察眼が研ぎ澄まされ、気がつけることも沢山あるんです。面白い職業かもしれないです。

息子が7月に修行過程の最終演目である『釣狐』披きます(初演します)。これで、ある意味独り立ちになり、これから僕は見守る立場になるのですが、一生修行なので生きている限りは僕は師匠として、これからも自分の背中を見せていかなくてはいけませんね。

トップス¥24,000ジャケット¥58,000パンツ¥32,000/すべてMXG golf & sports (MIKIO ART)
お問い合わせ:MIX SENSE株式会社 [email protected]

撮影/沼尾翔平  ヘアメイク/Kamata Misaki 取材/山崎智子

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